利用者のわがままが苦手な介護職員は少なくありません。
利用者の望みを叶えねばならないと考えてしまう事でわがままが負担となり、対処に困った経験は全ての介護職者に共通のものではないでしょうか。
断らなければならない場面で言葉選びに苦心し、わがままを断るだけでも苦痛になる場合もあります。
結果的に腫れ物に触るように関わることになっては介護者にとっても、利用者にとっても良い介護になりません。
今回は利用者のわがままについて、対処法をお伝えいたします。
目次
利用者さんのわがままの5大理由
恋人との関係をそのまま当てはめる訳にはいかないけれど、わがままにも理由があるということを意識しなくてはいけないと感じてもらえると嬉しいね。
わがままを言う場合にも、理由があります。
中にはわがままの内容が重要なのではなく職員の対応を見ている場合も多く、認知症高齢者ならば認知症状の影響も考えなくてはなりません。
わがままの内容として表出しているニーズではなく、内に秘めた真のニーズを意識してわがままの理由を考えましょう。
わがままを聞き入れてくれるかどうかで信頼性を測っている
小さなわがままを発することで、信頼性を測っている可能性を考えなくてはなりません。
手間だから、面倒だからなどを理由にちょっとしたわがままを無下にするのか、簡単な内容ならばわがままも聞き入れてくれるのかを信頼性の目安としているのかもしれません。
展示品が安くならないかを交渉したり、会計の端数を値切ったり、良くしてくれる店を贔屓にする感覚は誰にでもあるものです。
これと全く同じであるとは言えないかもしれませんが、自分をどれだけ大切に、丁重に扱ってくれるのかを測っているならば、わがままだからと全てを無下にしてしまうことも問題かもしれません。
わがままだと思って言っていない
認知症の中核症状、つまり認知症高齢者なら誰しもが少なからず持っている症状には失見当識や記憶障害があります。
例えば早朝の時間帯にお腹がすいた、何か食べたいとわがままを言う場合、失見当識による時間意識の障害、長い生活歴の中で朝食がその時間帯であり記憶障害によりその時代の生活リズムを当然と考えている可能性があります。
自分で食べることが出来る身体機能を有していながら食事介助を望む場合、箸やスプーンの使い方が失行、失認により一時的に分からなくなっているのかもしれません。
どうやって食べればいいか分からなくなり混乱しているが、痴呆扱いされたくないというプライドから食べさせてほしいという形でニーズが表出しているのかも知れません。
個人的な性格によるわがまま
わがままな性格であり、人を困らせるような言動を好む場合もあります。
しかし、その場合でも理由を検討しなければなりません。
特に男性では家父長制が当然だった時代に生きていた方も多く、わがままが聞き入れられて当然であると考えているのかもしれません。
掃除がしたい、買い物に行きたいなどの聞き入れがたいわがままも、毎日自分がしていた掃除をしなければいけないという使命感や生活歴として行っていた買い物を続けたいという思いが現れているのかもしれません。
寂しさや自己顕示欲、承認欲求、焦燥感など、感情の揺らぎの表れ
誰かに構ってほしい、認めてほしいという思いが、わがままとなって現れることは少なくありません。
失見当識によって昼夜が逆転し、昼間の感覚で一人で夜の暗い自室で過ごす時に、誰かに話し相手になってほしいという感情は決しておかしくはないでしょう。
寂しいから、構ってほしいからとわがままをいってしまうのです。
こんなにわがままな自分の言う事を聞いてくれているという承認欲求を満たしたくて、わがままを言ってみることもあるでしょう。
発達期のこどもにはよく現れる特徴であり、困らせてみたいという思いは大人でも恋人や家族に対して沸きあがるものです。
譲れない思いやこだわりから、わがままを通したい
強いこだわりや、譲れない思いは誰でも持っているものです。それは人によって多種多様で、誰にでもあるものでしょう。
自分に理解できないからと言って否定してしまう事は、人間性の否定に繋がってしまう事もあります。
相撲鑑賞を楽しみに、人生の至福の時間として生きがいにしてきた高齢者から、決まりだからといって取り上げて良いのでしょうか。
食事中にテレビを付けないという対応は注意散漫からの誤嚥を防ぐために取り組まれる施設もありますが、だからといって一人の人生から生きがいを奪っていいとは言えません。
わがままだと分かっていても押し通したい強い思いかもしれない、ここでの否定の簡単な一言が人生を踏みにじるかも知れないという意識を、決して忘れてはいけません。
わがままを言っているからと聞き流すのではなく、わがままとして表れている真のニーズについて検討しないといけないんだよ。
わがままな利用者さんへの対処法
「では、わがままへの対処法を紹介しよう。
わがままにも理由があることが分かりましたが、だからといって全てを聞き入れる訳にはいきません。
介護施設は共同生活空間であり、全入居者のわがままを無制限にかなえ続けることが不可能ですし、理由があるからといってわがままを聞き入れていたようでは業務全体に支障をきたします。
わがままへの対処法をお伝えいたしますので、参考にしていただければと思います。
わがままの裏に隠された、本当のニーズに対応する
わがままの裏に隠された、真のニーズに対応することが、わがままへの基本的な対処法です。
「食べ物を持ってきてほしい」というわがままが寂しさから現れているならば、実際には何も渡さずとも少し話を聞くだけで満足してもらう事もできるでしょう。
夜勤中に食べ物を渡すことが不可能でも、スタッフルームの前まで車椅子でお連れし、眠くなるまで世間話に付き合うだけなら可能な場合もあります。
同様のわがままが、どれだけ自分のわがままを聞き入れてくれるかを測っているならば、決まりで食べ物を渡すことは出来ないが、今回だけヒミツでちょっとしたオヤツをもってくる等と対応することがお勧めです。
誤嚥の危険があるので隣にいなくてはならないと説明し、食べている間に決まりの堅苦しさに対する愚痴などをこっそり伝えれば、秘密を共有したという連帯感はわがままを聞き入れてもらえたという感覚と併せて強い信頼関係のきっかけになることもあります。
欲しいがるから渡すのではなく、真のニーズに対応することが大切なのです。
指示を仰ぐという名目で時間を置く
わがままが失見当識による時間感覚の消失や記憶障害によるものである場合、聞き入れるという対応が現実的に不可能な場合も多々あります。
真夜中に外出を求めたり、食べたはずの食事を求めたりなどです。
その場合、何らかの方法で時間を置いてみるのがおすすめの対応です。
何か食べたいというわがままが空腹によるものでなく、かつ認知症がある場合、時間をおくことでわがまま自体が消失することもあります。
出掛けたい、何かをしたいという場合でも同様で、生活歴の踏襲や焦燥感がわがままとして表れる場合、時間をおいてクールダウンすることで「また今度にしませんか」「仕事が終わったら一緒にいきたいので、待っていてくれませんか」などの代替え案が承服してもらえるようになることもあります。
聞き入れた上で秘密にしてほしい、今回だけであると伝える
認知症のない高齢者の場合、今回だけである、特別な対応なので秘密にしてほしいと伝えてわがままを聞き入れるのはお勧めです。
先ほどお伝えした通り、秘密を共有するという感覚は信頼関係を構築する助けになります。
しかも秘密にしなければならない事を頑張ったという評価で見てもらえる場合もあり、更に次回以降に同じわがままが現れ辛くもなります。
秘密を守れるという評価をしていることを暗に伝え、認知症扱いしていないという態度を示すことも出来ます。
全てを聞き入れることは出来ない、決まりで出来ないということは伝えた上で、納得してもらうために今回だけはヒミツで対応するとするのは、信頼関係構築の上で有効な手段であると言えます。
しかしながら認知症であれば記憶障害によって忘れることもあり、一度は聞き入れられたという思いがわがままを助長する場合もあります。
全てのケースで利用できるのではなく、一部のケースで検討する対処であることを忘れないようにしましょう。
秘密にするというのは方便であり、上司や同僚には今回だけという形で対応したいこと、信頼関係構築の為に今回は断りたくないことをしっかりと伝えましょう。
でも信頼関係を構築するためには全てを断る事は絶対にお勧めできないよ。
わがままな利用者さんは成長させてくれる存在
だからこそ、わがままは介護職者を成長させてくれると考えることも出来るよね。
わがままに対し、説得や説明によって納得してもらうように働きかけることは多くの場合で良くない対応です。
お伝えしてきた通り、わがままには理由があり、簡単に納得できるならばそもそもわがままを言って他人を困らせたい人などいません。
それだけにわがままへの対処は難しいものですが、そこに介護職者としての成長があるといえるでしょう。
非言語に伝わってくる真のニーズ、言葉の裏の秘めた思いに身を寄せることが出来ればコミュニケーション技術としては、一つの完成を迎えたといっても過言ではありません。
更にわがままを聞き入れたり、真のニーズをくみ取って適切に対処をすることは強い信頼関係を構築します。
完成されたコミュニケーション技術を操り、利用者と強い信頼関係で結ばれるという、介護職者としての目指すべき姿を思い浮かべながら、一つ一つのわがままに対処するようにしましょう。
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