ポジショニングとは体位や姿勢を正しく整えることです。
介護の用語には様々な解釈が存在し、人や書籍によって説明も様々で、介護を覚えたての人には分かり辛い言葉かもしれません。
オムツ交換や食事介助と異なり、一般的な生活では意識することのない言葉である点も、分かり辛さを助長しています。
介護職、看護職などでなければ、一生耳にしない言葉かもしれません。しかし、ポジショニングはあらゆる介護の基本であるとも言えます。
オムツを交換するにしても、食事を介助するにしても、ただ座るにしても、姿勢が正しくなければ関節や筋肉に負担がかかる危険があります。
食事では正しくポジショニングできていなければ誤嚥のリスクが高まりますし、臥床なら褥瘡に繋がります。
ポジショニングには利用者の身体機能や栄養状態、疾病や障害の有無が深くかかわるため、正解を説明することは出来ません。
それでも確からしい正解を根拠をもって導き、実施するのが介護職者です。
今回はポジショニングについて、考え方とポイントを解説していきたいと思います。
目次
介護のポジショニングとは?
ポジショニングとは、体位や姿勢を正しく整えることだと説明しました。
右側臥位や仰臥位で臥床する、褥瘡の好発部位にクッションなどを設置して除圧するというのはポジショニングの分かりやすい例です。
この場合の「正しく」とは、体圧が分散されて関節部などに圧力が集中しない状態に出来ている事を言います。
ポジショニングにおける正しさは、目的や利用者個々に応じて変化するものです。利用者の状態やこれから行う動作に合わせて姿勢を整える事、それがポジショニングです。
足を引くことで重心を身体の中心に移動しているんだね。
ポジショニングが大切な理由
しっかりと行えていないと重篤な事故や怪我に繋がるんだ。
例えば重たいものを持つときに足を開いて重心を低く保ち、体重を支える支持基底面を広くすることは誰でも無意識に行います。
立ち上がる時には足を引きますし、同じ体勢で寝ていて腰が痛くなれば寝返りを打ちます。
このように、動作を行う前などには、無意識のうちに自然と最適な姿勢に整えるものです。
高齢者では自分の力でそれが出来なくなっているからこそ、ポジショニングが大切なのです。
食事の時、上を向いて飲み込む人はいないはずです。
試しに上を向いて唾を飲み込んでみてください。のどに引っ掛かりを感じるはずです。そして、上を向いて唾を飲もうとしたあなたの背筋は伸び切って、背もたれに体重を預けていたのではないでしょうか。
この姿勢で食事をすることは大変危険です。
喉頭蓋が正しく機能せず、誤嚥のリスクが高まるだけでなく、最悪の場合は喉を詰めて呼吸困難に陥る危険もあります。
しかし、十分な背筋と腹筋、下肢筋力が無ければ、ただ足を引いて前傾姿勢に座り、顎を引くことも困難な場合があるのです。
寝返りが打てなければ、腰や肩、踵に褥瘡が発生します。
しかし、寝返りには全身のバネが必要です。仰向けから横向きに寝返りを打つなら、重力に逆らって肩を胸の筋肉だけで持ち上げているのです。
最適な姿勢に整えるという意味でなら、人間の体は無意識にポジショニングしているんだよ。
ポジショニングのポイント
しっかりとポイントを押さえて、状況に合わせて行うしかないんだ。
寝返りができない高齢者に対して、ただ左右に体位変換するだけではポジショニングは出来ていません。
その方に麻痺側があるなら、麻痺側を下にする臥床は脱臼などのリスクが非常に高くタブーです。
関節には良肢位という負担のない自然な角度が存在しますが、全ての関節を良肢位に固定すれば自由な体動を阻害することになり、むしろ褥瘡を誘発します。
食事には前傾した姿勢が大切ですが十分な筋力が無ければ前方に倒れてしまいますし、緊張性麻痺のある方は立ち上がるからと言って膝を曲げることが出来ない場合もあります。
深い利用者理解と、関節や動作に対する知識を必要とし、しっかりと洞察して臨機応変に実施するのがポジショニングなのです。
ここでは、ポジショニングで重要になるポイントを紹介したいと思います。
1)目的
ポジショニングを行う場合、必ず目的があります。介護が日常生活上の世話を行うものである以上、全ての介護には日常生活上の目的があると言えます。
食事の際の座位なら、安全な嚥下や咀嚼が行え、誤嚥などのリスクを下げながら、可能であれば自力摂取が出来る事。
臥床するならば、体圧が分散、除圧されて褥瘡のリスクが軽減し、同時に障害部位などを保護する事。
立ち上がる前のポジショニングならば体重と重心の移動をスムーズにし、立ち上がり動作を安全に、負担なく実施することでしょう。
しっかりと目的を確認しなければ、正しいポジショニングは出来ません。
また目的をしっかりと把握することによって、十分な身体機能がありポジショニング介助が不要な方への過剰介護を予防することも出来ます。
2)身体機能の理解
ポジショニングは利用者個々の身体機能に応じて実施されます。食事の際には身体は前傾し、顎を引いた状態が自然な姿勢です。
十分に前傾されない場合などには背中と背もたれの間にクッションを挟む場合もあるでしょう。
しかし、自力で十分に前傾姿勢が可能ならばそのクッションは邪魔でしかなく、むしろ食事を阻害します。
臥床時の除圧でも、しっかりと体動が可能なら、クッションを挟むなどの介助は体動を阻害し、むしろ褥瘡を誘発します。
緊張性麻痺や拘縮によって関節の可動域が狭くなっている場合や関節が一切動かない場合には、無理に動かすことは出来ません。
立ち上がり前に足を引くことが必要ではありますが、足を引くために足を引くのではなく、立ち上がりをスムーズにするために足を引くのです。
膝が曲がらないならば、膝を曲げずに安全に立ち上がるためのポジショニングを考える必要があります。
3)一般的な正しいポジショニングの知識
食事のために、誤嚥などを防ぐためにポジショニングをするという目的意識をしっかりと持ち、十分な利用者理解が出来ているとしましょう。
しかし、それだけでは食事前のポジショニングをすることは出来ません。
両足が床につき、テーブルと身体には握りこぶし一個分程度の隙間があり、身体がやや前傾し、顎が引けている状態。
食事の際に正しいとされるポジショニング知識を十分に理解していなければならないのです。
関節の可動域も理解しなければなりませんし、疾病がポジショニングに及ぼす影響についても知識が必要でしょう。
骨格や筋肉、疾病の理解、摩擦によって皮膚が剥がれる恐れもありますから、摩擦係数などの物理に関する知識も必要かも知れません。求めればキリが無いのが介護知識です。
少なくとも正しいとされるポジショニングについては、理由までしっかり説明できるレベルでの知識を持つようにしましょう。
正しいポジショニングを覚えるために
先輩介護士のポジショニングを観察すれば、その日、その時、その利用者に対する介助を知ることは出来るかも知れません。
しかし別の利用者を相手に実施するならば当然別の介助になるでしょうし、体調によっては明日は違う介助を行うべきかもしれません。
結果だけを考えるなら、誤嚥を起こすことなく食事を摂ることが出来たならそのポジショニングは正解かもしれませんし、褥瘡が出来なければ正しい除圧が出来ていると言えるかも知れません。
しかし、どれだけ正しいポジショニングが出来ていても発生するのが事故です。栄養状態や水分摂取量、元々の皮膚の柔軟性によってはポジショニングにどれだけ気を払っていても褥瘡が出来ることもあります。
その時にポジショニングは間違っていなかったと根拠を持って説明ができ、ポジショニング以外の理由を検討することが出来るのがプロの介護職者です。
根拠をもって説明が出来るという事は、同時に自分の身を守ることにもなります。
介護のミスによる事故ではないと説明する為には、そこにミスがなかったと自信をもって説明できるだけの根拠が必要なのです。
今日は膝が痛いからという訴えがあれば、違うポジショニングになるかも知れません。
膝が痛くとも、安全を重視すれば同じポジショニングをするべきなのかもしれません。
そこには深い考察があり、その結果根拠を持って実施すべきなのです。
ただ見学するのではなく、疑問があるなら当然、疑問がなくとも可能ならば積極的に質問するなどして、根拠も含めて教えてもらうべきでしょう。
顎を引かずに飲み込むことがいかに危険か、やってみればよく分かったんじゃないかな?。